群馬大学医学部医学科で開講している「医系の人間学」について
日頃より本学の教育にご理解とご支援をいただきありがとうございます。
群馬大学医学部医学科で開設の科目について、一部報道により、学生、保護者、その他関係の皆さまに不安を与えてしまうことを危惧しております。この機会に、本学医学部医学科の教育方針と科目「医系の人間学」についてご説明させていただきます。
本学医学部医学科は、医学・医療が自然科学の上に成り立ち、かつ社会の中で人を対象として行われるものであることを理解し、科学的知(Science)、倫理(Ethics)、技能(Skill)の3つの面(SES)にわたって生涯自己研鑽を続けることができる学生を育成することを目的としています。
これを実現するため、「学生が卒業時に身につけておくべき力(コンピテンシー)」として、8つの項目を定めています。その中の「コミュニケーション能力」において具体的には、以下を身に付けてもらうよう教育を行っています。(https://www.med.gunma-u.ac.jp/undergrad/outcome)
「コミュニケーション能力」
相互理解と人間関係の構築を意識し、患者やその家族、スタッフと対話を重ねることができる。
1.礼節(服装、態度、言葉遣い、時間厳守等)をわきまえている。
2.患者・家族、医療スタッフとの円滑な意思疎通と、信頼関係の構築に努めることができる。
3.異なる価値観・考えに耳を傾け、理解しようと努めることができる。
4.心理的洞察力や言語表現力の向上に努め、他者の言語的・非言語的表現を総合的に解釈することができる。
5.患者・家族の個別の状況やニーズを汲み、わかりやすく適切な言葉を用いて説明することができる。
6.コミュニケーションを深めようとするあまり相手のプライバシーを侵害することのないように気を配ることができる。
「医系の人間学」では、この「コミュニケーション能力」「自己省察力」「知識の獲得と知識を応用する力」などを身に付けてもらうため、患者さんやそのご家族のもつ価値観や社会的背景が多様であり得ることを認識し、そのいずれにも柔軟に対応できる人材を育成するための実践的な授業を行っています。例えば、ドキュメンタリーなどの視聴覚教材を視聴して、学生間での対話を行うことで、多面的な捉え方を身に付けてもらうよう心掛けています。さらに、患者さんの心情理解や一挙手一投足を見逃さない洞察力といった理屈や知識ではない「生きた倫理」を身に付けることを目的として、創造力・コミュニケーション力・チームビルディング力などを養うためのインプロ(即興演劇)や、医師としての模擬患者さんとのやり取りを学生に即興で演じてもらい、学生間や講師との意見交換を行なうクリニカル・シアターやクリニカル・エチュードなど、身体表現に重心を置いた教育を行っています。この演劇を通じた人間力の教育については、医学界新聞でも紹介され、学外からも高い評価を得ています。このように、「医系の人間学」は、後に開講される診療参加型臨床実習において患者さんやそのご家族と信頼関係を築くための能力を涵養するものです。
「医系の人間学」については、主観的評価とならないよう、シラバスに授業の到達目標、評価の観点、成績評価基準を掲載するとともに、実際の成績評価にあたっては、科目責任者となっている教員だけでなく、複数の教員による間主観的な評価を実施しています。具体的には、10名の教員からなる科目企画運営グループの全教員が各回のリアクションペーパーの評価及び総合判定の評価を担当しました。さらに総合認定会議、医学科教務部会、医学科会議(教授会)の議を経て、医学部長が単位を認定しています。
本学では、継続的に教育の見直しと改善を実施しています。「医系の人間学」においても評価方法やフィードバックの在り方等の見直しを進めています。今後とも、医療安全、人間理解、人との関わり方について十分に身につけられる授業となるよう、これまでにも増して工夫を重ねていきたいと考えていますので、皆さまにおかれましては引き続きご理解、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
群馬大学長
石崎 泰樹