大量のナノポアを人工細胞膜への挿入技術を確立~高感度バイオセンサの開発に期待~
理工学府分子科学部門 神谷厚輝助教は、DNAなどの生体分子を検出するセンサとなるナノポア(薄膜上の小さな穴)を、人工細胞膜に多量に挿入できることを明らかにしました。
ナノポアを形成する外膜タンパク質(Outer membrane protein)である OmpG と OmpA を、試験管内の無細胞タンパク質発現系を用いて発現させ、OmpG と OmpA の人工細胞膜への挿入量を調べたところ、人工細胞膜を構成するリン脂質の組成によって、その挿入量が異なることが分かりました。
本研究成果は、2022年2月11日(日本時間)にオンラインで公開されました。
本件のポイント
- ⼈⼯細胞膜表⾯の電荷と、リン脂質の炭化⽔素鎖の不均⼀性がOmpGの⼈⼯細胞膜への挿⼊量に影響
- ⼈⼯細胞膜に挿⼊されたOmpGやOmpAがナノポアを形成することを確認
本件の概要
OmpGやOmpAなどのナノポアタンパク質は、⼈⼯細胞膜に挿⼊することで⽣体分⼦(特にDNA)の⾼感度検出が可能です。これは、⼈⼯細胞膜を⽣体分⼦が通過する際、膜上のナノポアがイオンの流れを阻害することを利⽤しています。ナノポアタンパク質は通常、⼤腸菌等で発現・精製されており、多量に発現させるには時間と設備が必要となります。今回は、無細胞タンパク質発現系(注1)を⽤いて、ナノポアを形成するOmpGやOmpA発現を、⼈⼯細胞膜リポソームと共存下で⾏いました。リポソーム(注2)に挿⼊されていないOmpGやOmpAは遠⼼処理で取除き、OmpGやOmpAのリポソームへの挿⼊量を評価しました。リポソームの表⾯が負電荷の場合、リポソームへのOmpGとOmpAの挿⼊が顕著に増⼤しました。リポソーム表⾯が負電荷で、リン脂質の炭化⽔素鎖が不均⼀な場合に最も多く挿⼊され、最⼤で約8倍のOmpGがリポソームに挿⼊されました。さらに、挿⼊されたOmpGがナノポアを形成していることを、パッチクランプ法(注3)によって明らかにしました。本研究で、膜の電荷や不均⼀性がOmpGやOmpAの⼈⼯細胞膜への挿⼊に影響することを明らかにし、膜タンパク質が膜上に集積されることによる機能化や、⽣体分⼦を検出できる⾼感度バイオセンサ素⼦としての活⽤が期待されます。
発表雑誌
- 雑誌名:Scientific Reports
- 論⽂題名: Formation and function of OmpG or OmpA-incorporated liposomes using an in vitro translation system
- 著者:Koki Kamiya
- DOI番号: https://doi.org/10.1038/s41598-022-06314-4
⽤語
(注1)無細胞タンパク質発現系
⼤腸菌や酵⺟などの細胞内に存在する転写・翻訳機構を取出し、試験管内でタンパク質を発現させる⽅法。
(注2) リポソーム
細胞膜の構成成分のリン脂質が⼆分⼦膜を形成した⼩胞。細胞膜と同じ構造を持つため、ドラッグデリバリーシステムに活⽤されている。
(注3) パッチクランプ法
ナノポアやイオンチャネル内のイオンの流れを電気的に測定する⽅法。
プレスリリース
⼤量のナノポアを⼈⼯細胞膜への挿⼊技術を確⽴~⾼感度バイオセンサの開発に期待~
関連リンク
- 神谷厚輝助教の研究紹介
- Formation and function of OmpG or OmpA-incorporated liposomes using an in vitro translation system
- 理工学部・大学院理工学府「【プレスリリース】大量のナノポアを人工細胞膜への挿入技術を確立~高感度バイオセンサの開発に期待~」