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【プレスリリース】ノイズに強く、速い変化も逃さない周波数推定法を開発 観測区間を「重ねる」ことで精度と時間分解能を両立

[CATEGORY] プレスリリース, メディア情報, 受賞・成果等 [tag]

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群馬大学大学院理工学府電子・機械類の藤井雄作教授と、タイ・ラジャマンガラ工科大学イサーン校のPhichai Youplao准教授、Nithiroth Pornsuwancharoen助教らの国際共同研究チームは、ノイズの多い環境でも、時間的に速く変化する周波数を高精度に追跡できる新しい推定法「OS-ZFM(Overlapped Sampling-Intervals Zero-Crossing Fitting Method)」を開発しました。研究成果は、計測工学分野の国際学術誌『IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement』に掲載されました。

周波数推定では、長い時間のデータを使うほどノイズを平均化できますが、急速な変化を捉えにくくなります。反対に、短い時間で頻繁に推定すると時間分解能は高まる一方、ノイズの影響が大きくなります。本研究では、観測区間を部分的に重ねて用いることで、「ノイズ平均化に必要な観測長」と「推定値を更新する時間間隔」を分離し、この根本的なトレードオフを緩和しました。

SNR 10 dBの厳しいノイズ条件における数値評価では、同じ時間分解能の従来ZFMと比べ、加速度推定の中央値誤差を60%以上低減しました。基本的なゼロクロス検出法に対しては最大90%低減し、ヒルベルト変換を用いる手法よりも一貫して小さい誤差を示しました。また、レーザードップラー干渉計による衝撃運動の実験では、従来法より滑らかで物理的に整合した加速度-変位軌跡を再構成しました。

   図1 OS-ZFMの基本概念。長い観測区間Nでノイズを平均化しながら、短い更新間隔Mで推定値を出力する。

研究の背景

周波数の正確な推定は、振動計測、精密変位計測、動的な力・加速度計測、光干渉計測など、多くの計測技術の基礎です。特に、レーザードップラー干渉計では、測定対象の速度に応じて変化するドップラー周波数を求め、その時間変化から変位や加速度を算出します。

ゼロクロス法は、波形がゼロを横切る時刻から周波数を求めるため、計算が単純でリアルタイム処理に適しています。藤井教授らは2009年、複数のゼロクロス時刻を最小二乗法で直線近似するZFM(Zero-crossing Fitting Method)を提案しました。ZFMは基本的なゼロクロス法よりノイズに強い一方、観測区間を長くすると時間変化を平滑化してしまい、短くすると推定値のばらつきが増えるという課題が残っていました。

今回開発したOS-ZFM

OS-ZFMでは、N周期分のゼロクロス時刻を用いて一つの周波数を推定した後、観測窓をN周期分進めるのではなく、Nより小さいM周期だけ進めて次の推定を行います。隣接する観測窓が一部のデータを共有するため、個々の推定では長い観測区間によるノイズ平均化を維持しながら、短い間隔で新しい推定値を得られます。

  • 観測区間N:ノイズ平均化の強さを決める。Nを大きくすると、個々の周波数推定の分散は理論上おおむねNの3乗に反比例して低下する。
  • 更新間隔M:推定値を出力する時間間隔を決める。MをNより小さくすることで、時間分解能を高める。
  • 閉形式の最小二乗計算:反復計算や周波数スペクトル処理を必要とせず、推定過程が明確で、計算量が小さい。
  • 構造化されたデータ再利用:単なる補間や後処理による平滑化ではなく、ずらした各観測窓について新たな回帰問題を解く。

 

主な研究成果

1.ノイズ下での推定誤差を大幅に低減

強度ノイズと背景ノイズを加えたシミュレーションを行い、OS-ZFMを、基本的ゼロクロス法(ZCM)、従来ZFM、複数点最小二乗法(MPLS)、ヒルベルト位相法(HPME)と比較しました。SNR 10 dB・同一の時間分解能では、背景ノイズ条件の加速度推定中央値誤差が、従来ZFMの0.569 m/s²から0.197 m/s²へ約65%低下しました。強度ノイズ条件では0.089 m/s²から0.032 m/s²へ約64%低下しました。


   図2 SNR 10 dBにおける加速度推定の中央値誤差。論文Fig. 4(c)の数値に基づき作成。

2.理論的に解釈可能なバイアス-分散特性

ゼロクロス時刻の誤差を統計モデル化し、推定周期の分散が観測区間Nの増加に対してO(N⁻³)で減少することを示しました。重なりによって隣接する推定値には相関が生じますが、個々の推定値の不偏性と分散は観測区間Nによって決まり、更新間隔Mとは分離して設計できます。

3.衝撃運動の実験で安定した軌跡を再構成

空気軸受上の約1.93 kgの質量をゴムシートに衝突させ、その過渡運動をレーザードップラー干渉計で測定しました。OS-ZFMは、衝突時の急速な変化に追従しながらノイズを抑え、反発後半に現れるゴムの粘弾性的応答を含む、滑らかで物理的に整合した加速度-変位軌跡を得ました。ただし、この実験は独立した高帯域基準器による絶対精度の検証ではなく、同一データに対する推定法間の比較です。

4.組込み機器でのリアルタイム処理が可能

OS-ZFMは、ゼロクロス時刻の局所補間と閉形式の線形回帰だけで計算できます。論文中の試算では、100 MHz級のARM Cortex-M4マイクロコントローラで約33%の処理負荷に相当し、データ記録や周辺機器制御を並行して行う余地があります。追加の計測ハードウェアを必要とせず、既存の干渉計測システムにアルゴリズムとして導入できます。

社会・産業への期待

OS-ZFMは、周波数が時間とともに変化する信号を、限られた計算資源でリアルタイムに処理する用途に適しています。レーザードップラー干渉計を用いた振動・衝撃・動的力・加速度計測のほか、機械設備の状態監視、分散型センサー、スマート計測、組込みIoT機器などへの応用が期待されます。
また、本研究で用いた「観測窓を部分的に重ね、ノイズ平均化と更新間隔を分離する」という考え方は、ゼロクロス法に限定されません。多項式近似やスプライン近似など、他の時間領域の推定法へ拡張できる可能性があります。今後は、急激な周波数変化に応じて観測長を自動調整する適応型OS-ZFMや、極低SNR・波形歪み・ゼロクロス欠落に強い検出法の開発を進めます。

 

国際共同研究の経緯

本研究は、藤井教授が2009年に提案したZFMを基礎として、ラジャマンガラ工科大学イサーン校のPhichai Youplao准教授らとの共同研究により発展させたものです。Youplao准教授は、これまで複数回にわたり群馬大学藤井研究室に滞在して共同研究を行っており、本成果は長年の国際共同研究の蓄積から生まれました。

掲載先

雑誌名:IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement
題 名:Noise-Robust Frequency Estimation via Overlapped Sampling-Intervals Zero-Crossing Fitting
著者名:Phichai Youplao, Nithiroth Pornsuwancharoen, Yusaku Fujii(藤井 雄作)
公開年:2026年
DOI:10.1109/TIM.2026.3693432
URL:https://doi.org/10.1109/TIM.2026.3693432
研究費:JSPS科研費 25K00735

 

用語解説

  • 周波数推定:周期的な信号が1秒間に何回繰り返されるかを、測定した波形から求める処理。
  • ゼロクロス:信号波形がゼロの値を横切る点。隣接するゼロクロス時刻の間隔から周期や周波数を推定できる。
  • SNR(信号対雑音比):目的信号とノイズの強さの比。値が小さいほどノイズの影響が大きく、10 dBは厳しい条件に相当する。
  • レーザードップラー干渉計:対象物の運動によって生じる光の周波数変化(ドップラー効果)を利用し、速度・変位・加速度を非接触で測定する装置。

 

関連論文

[1] Y. Fujii and J. P. Hessling, “Frequency estimation method from digitized waveform,” Experimental Techniques, Vol. 33, No. 5, pp. 64–69, 2009. https://doi.org/10.1111/j.1747-1567.2008.00421.x

[2] P. Youplao, H. Nasbey, A. Takita, P. Nachaisit, and Y. Fujii, “An Optical Method for Evaluating the Mechanical Properties of Wires Under Impact Tensile Load,” IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, Vol. 73, Article 1001111, 2024. https://doi.org/10.1109/TIM.2023.3332347

【本件に関するお問合せ先】

〈研究に関すること〉

群馬大学 大学院理工学府 電子・機械類 教授 藤井 雄作(フジイ ユウサク)
E-MAIL:fujii@gunma-u.ac.jp 
 

〈取材についてのお問合せ〉

群馬大学 桐生地区事務部 事務課 庶務係 広報担当
TEL:0277-30-1011
E-MAIL:rikou-pr@ml.gunma-u.ac.jp 
 
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