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【プレスリリース】次のパンデミック、「社会を止める」から「測って守る」へ、国際医学誌 Journal of Medical Internet Research(JMIR)に論文掲載決定 ― 接触追跡の失敗を「測定の失敗」と捉え直し、 プライバシーと感染症対策を両立する社会インフラを提案 ―

[CATEGORY] プレスリリース, メディア情報, 受賞・成果等 [tag]

プレスリリース資料はこちら

大学院理工学府知能機械創製部門の藤井雄作教授によるViewpoint論文「From Measurement Failure to Privacy Infrastructure: Reframing Contact Tracing Governance for the Next Pandemic」が、国際医学誌『Journal of Medical Internet Research(JMIR)』に採択され、Accepted Preprintとして公開されました。JMIRの2025 Journal Impact Factorは8.2で、Medical InformaticsおよびHealth Care Sciences & Servicesの両分野でQ1です。

図1 新しいパンデミック対策

本論文は、COVID-19における接触追跡の限界を、アプリやセンサーなどの技術が存在しなかったためではなく、必要な情報を人々が安心して高精度に測定できる社会的な仕組みが不足していたためと捉えます。接触履歴、移動情報、検査情報、身体状態などを感染症対策に活用するには、測定への参加を支えるプライバシー基盤が必要です。本論文は、この構造的な問題を measurement failure(測定の失敗)と捉え直し、プライバシー保護を測定の制約ではなく、高精度な測定を社会的に可能にする基盤(privacy infrastructure)として位置づけます。

本論文は、著者がこれまで進めてきた二つの研究群、すなわち一般市民向け陽圧型PAPR「PAPR for Everyone」による曝露制御と、AI出力を検証・記録・監査可能にするAI・プライバシーガバナンス研究が、「次のパンデミックに向けた社会インフラ」という構想として結実した研究成果です。感染症対策と個人の自由を二者択一にしない、将来の大規模な公衆衛生インフラを構想しています。

ポイント

  • COVID-19における接触追跡の限界を、技術の不足だけでなく、感染症対策に必要な情報を人々が安心して測定・共有できなかった「測定の失敗(measurement failure)」として捉え直した。
  • プライバシー保護を、高精度な測定を妨げる制約ではなく、人々の参加を支え,測定を社会的に可能にする基盤(privacy infrastructure)として位置づけた。
  • VRAIOを用い、情報やAI出力の目的と利用範囲を定め,規則への適合性を検証し,記録・監査する仕組みを提示した。
  • 高解像度疫学(high-resolution epidemiology)によって感染状況をより詳しく把握し、必要な人・場所・時間に防護と介入を集中する精密介入(precision intervention)への展開を提案した。
  • PAPR for Everyoneによる曝露制御と、AI・プライバシーガバナンスによる測定と情報利用の統治を結びつけ、次のパンデミックに備える社会インフラの構想を示した。

論文の概要

感染症を効果的に制御するには、誰が、いつ、どこで、どのような曝露を受け、感染し、発症したのかを理解する必要があります。COVID-19では、接触履歴、移動情報、検査情報、身体状態などを取得・解析するセンサー、スマートフォン、AI等の技術そのものが存在しなかったわけではありません。一方、測定対象は人間であり、精度を高めるほど、交友関係、行動、位置情報、身体状態などプライバシーの核心に近づきます。人々が安心して高精度な測定に参加できる仕組みが十分に整っていなかったことに、本論文は注目します。

プライバシーを優先した設計では疫学的有用性が不足しやすく、逆に詳細な情報を取得しようとすれば監視への不安や不信から社会的受容が損なわれます。本論文は、この問題を「プライバシーか感染症対策か」という二者択一ではなく、「十分なプライバシー保護がなければ、必要な測定そのものが成立しない」と捉え直します。

その制度的な仕組みとして、本論文ではVRAIO(Verifiable Record of AI Output)を取り上げます。VRAIOは、許容される情報利用のルール、AI出力時の目的等の宣言、第三者による検証、改ざん困難な記録、独立した監査等を組み合わせ、何を外部へ出力し、何の目的に利用することが許されるのかを検証可能にするガバナンス基盤です。

privacy infrastructureが整備されれば、接触履歴、移動情報、スマートフォンやウェアラブルセンサー等から得られる情報を、従来より高い解像度で公衆衛生に活用できる可能性があります。その先に、high-resolution epidemiology(高解像度疫学)と precision intervention(精密介入)があります。

なお、本論文はViewpointであり、大規模な社会実装の実証結果を報告するものではありません。次のパンデミックに備えて、どのような制度・技術基盤を平時から構築し、検証すべきかを提示する概念的・制度的提案です。

二つの研究群から、次のパンデミックの社会インフラへ

1.PAPR for Everyone:感染性エアロゾルへの「曝露」を制御する

第一の研究群は、2020年に提案した一般市民向け陽圧型PAPR「PAPR for Everyone(自由外出マスク)」です。感染成立に先行する「感染性エアロゾルを吸入する」という物理過程に直接介入し、一人ひとりが呼吸する空気を個人レベルで制御します。基本構想以降、試作、実装可能性、人口レベルの条件、呼吸状態・漏れの計測、時間管理型運用、公衆衛生上の正式評価へと研究を進めてきました。

2.AI・プライバシーガバナンス:高精度な「測定」と情報利用を可能にする

第二の研究群は、AIとセンサーが社会や個人を高精度に把握できる時代に、プライバシーと社会的自由を維持するための研究です。「測定できること」と「自由に利用してよいこと」を区別し、AIが外部へ何を出力するのか、その目的や規則適合性を検証・記録・監査できる仕組みを研究してきました。VRAIOはその中核をなす基盤です。

3.今回のJMIR論文:二つの研究群の結実

今回のJMIR論文では、第二の研究群を感染症対策という具体的課題に適用し、「プライバシーを守る仕組みがあるからこそ、より高精度な社会的測定が可能になる」という転換を提示しました。個人が呼吸する空気を守るPAPR、スマートフォンやウェアラブル機器によるセンシング、AIによる解析、高解像度疫学、そして情報利用を統治するprivacy infrastructureを結びつけることで、次のパンデミックに備える社会インフラの全体像を構想できます。

  • Protect:感染性エアロゾルへの曝露を個人レベルで抑える
  • Measure:社会で起きている感染を高精度に把握する
  • Govern:得られた情報とAI出力の利用を検証可能な形で統治する

社会的意義

COVID-19では、感染状況を十分に把握できないまま、社会全体に広範な行動制限を求めざるを得ない局面が生じました。次のパンデミックでも、感染が拡大してから同じ選択を繰り返すのか。それとも、平時のうちに「守る」「測る」「統治する」ための社会インフラを準備するのか。

高精度な測定は感染症対策の能力を大きく高める一方、個人の生活を詳細に把握できる社会にもつながります。そのため、何を測定し、何のために利用し、何を外部へ出力してよいのかを、社会的ルールの下で検証可能にする仕組みが不可欠です。

本研究が目指す方向は、物理的な曝露を個人レベルで抑え、感染動態を高精度に把握し、その情報利用を検証可能な形で統治することです。これらを組み合わせれば、社会全体に一律の制限を課す代わりに、リスクに応じて必要な防護と介入を、必要な人・場所・時間に集中できる可能性があります。

最終的には、次のパンデミックで「社会をどこまで止めるか」を最初に考えるのではなく、「人々の日常生活と自由を維持しながら、どこまで正確に感染を防ぎ、測り、制御できるか」を考えられる社会への転換を目指します。

関連する研究

今回の論文は、以下の二つの研究群を背景として成立しています。詳細な研究業績は研究者ページに掲載しています。

【研究群1:PAPR for Everyone/曝露制御】
Fujii Y. An Engineering Alternative to Lockdown During COVID-19 and Other Airborne Infectious Disease Pandemics: Feasibility Study. JMIR Biomedical Engineering. 2024;9:e54666. https://doi.org/10.2196/54666
Fujii Y. Examination of the Requirements for Powered Air-Purifying Respirator (PAPR) Utilization as an Alternative to Lockdown. Scientific Reports. 2025;15:1217. https://doi.org/10.1038/s41598-024-82348-0
Fujii Y. Time-Managed PAPR Use Enables a Balanced Approach to Infection Control and Personal Freedom. Scientific Reports. 2026;16:2878. https://doi.org/10.1038/s41598-025-32625-3
Fujii Y. Reframing Pandemic Preparedness: Why Positive-Pressure Exposure Control Merits Formal Public Health Evaluation. JMIR Public Health and Surveillance. 2026;12:e90211. https://doi.org/10.2196/90211

【研究群2:AI・プライバシーガバナンス/測定と情報利用の統治】

Fujii Y. VRAIO as a Safety Valve: Governing AI Platform Outputs at Societal Scale. AI and Ethics. 2026;6:340. https://doi.org/10.1007/s43681-026-01206-z
Fujii Y. No Trust Without Trust Infrastructure: The Extended Kelvin Principle and Its Application to AI Output Governance. AI. 2026;7(6):218. https://doi.org/10.3390/ai7060218

【今回:二つの研究群の結実】

Fujii Y. From Measurement Failure to Privacy Infrastructure: Reframing Contact Tracing Governance for the Next Pandemic. Journal of Medical Internet Research. Accepted for publication, 2026. Accepted Preprint: https://preprints.jmir.org/preprint/99645/accepted
関連論文を含む研究業績一覧: http://www.e-jikei.org/fujii/fujii.htm

掲載先

雑誌名:Journal of Medical Internet Research(JMIR)
題 名:From Measurement Failure to Privacy Infrastructure: Reframing Contact Tracing Governance for the Next Pandemic
著者名:Yusaku Fujii(藤井 雄作)
論文種別:Viewpoint
状 況:Accepted for publication / Accepted Preprint 公開
Accepted Preprint:https://preprints.jmir.org/preprint/99645/accepted
Impact Factor:2025 Journal Impact Factor 8.2、Q1(Medical Informatics; Health Care Sciences & Services)
※正式出版版のDOI、巻号等は、オンライン出版後に追記します。

【本件に関するお問合せ先】

〈研究に関すること〉
群馬大学 大学院理工学府 知能機械創製部門 教授 藤井 雄作(フジイ ユウサク)
 TEL(mobile):080-3550-5585
 E-MAIL:fujii@gunma-u.ac.jp
 研究業績:http://www.e-jikei.org/fujii/fujii.htm

〈取材についてのお問合せ〉
群馬大学 桐生地区事務部 事務課 庶務係 広報担当
 TEL:0277-30-1011
 E-MAIL:rikou-pr@ml.gunma-u.ac.jp

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